公式の覚え方

こんな公式を生協でカレー食っている最中にふと思い出した。(因果性はなし)
n {}_{n-1} C_{p-1} = p {}_n C_p
こんなマイナーな公式は知らない人が殆どだろうしとても用途があるとは思えない上にちょっと計算すればすぐに出てくるような内容なので覚える価値等ないのだが、それでも試験にでるとか言われて覚える羽目になったらどうすか?「覚えない」というのも選択肢の一つだろうけどとりあえずその選択は今回ははずす。一番ダメなのは暗記すること。「えぬこんびねーしょんえぬまいなすいちぴーまいなすいちいこーるぴーこんびねーしょんえぬぴー」とかを唱えまくる。自称文系の人に実に多いのだがこんなことをしたところで試験終了まで持つかどうか妖しいし、なにより無意味。こんなことすれば数学が嫌いになるのは当然だろう。ではどうすればいいか?別の問題を例にとってみよう。
以下の文を暗記せよ。
「ほあずぎにう。ちぢはすきびのはらえぢ。」
全くの意味不明だろう。こんな国語(?)の問題が出たら誰だって国語が嫌いになるだろう。しかし、ちょっと別な問題を出してみよう。
以下の文を暗記せよ。
「へんじがない。ただのしかばねのようだ。」
多分すぐに覚えられるだろう。情報量、つまり覚える量としては前の問題と全く同じなのに後者の方が圧倒的に覚えるのが速い。なぜか?説明するまでもない。前者が意味の無い文字列なのに対し、後者は意味を持っている。その意味の方を覚えれば文字列の復元はたやすい。文字列そのものを覚えているわけではないから速いのだ。はい、言いたいことはわかりますね。数学も全く同じなんです。数式一つ一つに全て意味があるんです。その意味が重要なのであって数式そのものはその表現の一つに過ぎないのです。表現そのものをただ覚えようとすると大変苦労します。
では話を戻して最初の式を見てみましょう。理系ならこれをこのまんま覚えるなんてことはまずしないでしょう。する人は理系として認めませんよ(ぉ 大抵やることといえば情報を半分に落とすことから始めるでしょう。つまり、片方しか覚えない。片方覚えておけばもう片方は式変形で自然と出てくる。今回の公式は結構これにあっている。しかしこの覚え方は公式の覚え方としてはあまり意味をなさない。そもそも式変形が自力でできるなら覚える意味はほとんど無い。ではどうするか。この式そのものを実例にすればよい。両辺に出てくるコンビネーションの意味はなにか?nCpといえば、n個の中からp個のものを選ぶ組み合わせである。ここから考えてみよう。右辺を見てみよう。まずはnCpである。さらにpをかけている。考え方はいろいろあるだろうが、その1例として、p個のものから1つ選ぶ組み合わせ、が考えられる。つまり全体としては「n個の中からp個えらび、そのp個の中から1つ選ぶ組み合わせ」ということになる。では左辺はどうか?先程の事象と全く同じ内容を考えればよい。n個の中からp個選んだが、先にn個の中から1個えらんだらどうなるか?残りはn-1である。そしてその中からp-1選ぶ組み合わせとすれば事象は同じになる。あとはこれを数式に起こしてやればよいだけである。事象が同じなのだから数式も等値にならなければいけない。これでも覚えにくいならもっと具体例にしてしまえばよい。「あるn人のクラスから委員をp人選び、委員の中から委員長を1人選ぶ場合、全ての組み合わせはいくつか?」等等*1

しかし、このようにいつでもいい例が当てはまってくれるとは限らない(というかむしろ稀?)。ある程度は暗記に走らざるを得ないこともある。それでも全部覚える必要は大抵はない。例えば加法定理。
\cos(\alpha+\beta) = \cos(\alpha)\cos(\beta)-\sin(\alpha)\sin(\beta)
これは語呂合わせ等で暗記した人も多いだろう(これも暗記する必要はないんだけど)。しかしその場合は数学的な部分を削除しているので暗記した内容があっているかどうかが不安になることも多いだろう。今回の例だと右辺の真ん中の符号とか。しかしccssまで覚えているなら符号ぐらいならすぐに出てくる。αとβに45°とか入れてやればよい。左辺はcos(90°)=0とすぐ出てくるだろう。右辺もとりあえず+か−を適当にいれてα=β=45°を入れて計算してみればよい。ちゃんと0になってくれた方が正しい符号だ。この場合、最低でもsinとcosの意味を知っている必要がある。つまり、sinとcosの意味も知らないようならこの公式を覚える意味は全く無い。当然だろう。
他の例もだしておこう。
\int_{\alpha}^{\beta}(x-\alpha)(x-\beta)dx = -\frac{1}{6}(\alpha - \beta)^3
大学受験で覚えた人も多いでしょう。これも暗記に走った人もいるでしょうけど、その場合やはり符号や係数が不安になったりするでしょう。暗記力に絶対の自信があるなら別ですが。これは式が積分なので具体的数値を入れてもすぐには出てこないでしょう。しかし符号ぐらいならすぐにわかりますね。積分なのだから図形的にかけますね。二次関数の下側の範囲の積分なのだから答えが負になるのはすぐわかるはずです。では1/6は?これはこの公式の導出方法を覚えていればすぐに出てきます。部分積分なので実質2回積分するのだから、2と3が前に出てくるので1/6になります。ここで重要なのは、式の導出を覚えているということです。ぶっちゃけ、式の導出だけで答えの公式の方は覚える必要はないのです。と言ってしまうと最初に言ったのと同じことになりますね。導出できるなら公式を覚える意味があまりないと。重要なのは導出も出来ない公式を覚えるなということでしょうかね。導出に時間がかかるからこそ答えだけを覚える、それが公式なのだから。

では公式に具体的数値をいれて確かめるような方法が通用しないような複雑な公式はどうするか?これはもう仕方が無い。覚えるまでひたすらその公式を導きだそう。
例題。
\int \frac{1}{\sqrt{1+x^2}}dx
これを素で解ける人はまずいないだろう。解き方を知らないとまず無理な奴の代表ですね。解き方はまず以下のように置換する。
t = x + \sqrt{1 + x^2}
あとはゴリゴリと頑張れば出来るわけなんだが初めてやる場合は余裕で数十分かかるだろう。ちなみに私は数秒で解けます。なぜか?嘗てこの問題を数十回も解いたからだ。1回目はもちろん数十分かかった。しかし10回もやれば効率の良い変形方法がわかってきてさらに先の形も覚えてきてすっ飛ばせるようになってくる。本当は100回はやったほうがいいのだが飽きっぽい私は数十回程度で疲れてしまった。それでも10年近く経つのにまだ覚えている。もし数式そのものを100回書いたのなら恐らくとっくに忘れていただろう。しかし式変形という数学的な意味を何度も書いた場合はそう簡単には忘れない。
ちなみに、私は前に書いた加法定理や積分の公式も覚えてはいない。ではなんですぐ出てくるかというと、導出に1秒とかかっていないだけの話である。よく使う公式は何度も式変形しているのでこういった業も可能になってくる。

「じゃあ公式は覚えるなというのか!!」といわれればぶっちゃけそうなのですが(ぉ しかし覚えたなら覚えた人間にしか出来ない技があります。というか、公式を覚える理由はそれにつきるんじゃないかというのがあります。
例えば例に出した加法定理。
\cos(\alpha+\beta) = \cos(\alpha)\cos(\beta)-\sin(\alpha)\sin(\beta)
これだってすぐに導出できるのだから必ずしも覚える必要はないでしょう。しかしそれは左から右の話。右の式から左の式に定理を知らずして導出できますか?そう、公式が威力を発揮するのは逆演算の場合です。多くの単純な公式も逆演算にすると非常に大変だったりしますし、逆演算の発想がなかなか出てこなかったりします。試しに「1」を式変形してください。さて、一体どれだけ出てきますか?
1=\sin^2(x) + \cos^2(x)
1=\frac{d}{dx}x
1=\sum_{k=1}^\infty (\frac{1}{2})^k
1=e^0
1=\iota^4
他にもいろいろあるでしょう。どれも右から左なら簡単でしょう。しかし逆は知らないと絶対に無理です。こういう演算を可能にするのに公式の暗記というのは役に立ちます。

エラソーなことを書きまくったがじゃあ私は全然暗記に走っていないかといえばそうでもなかったり。
\sum_{k=0}^{n} k^2 = \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)
これはほぼ完全に暗記しました。教科書に書いてあった導出方法も覚えていなくも無いけど大変なのでやったことはありません。だから使うときは結構不安です。使う前にいつもn=1、2、3あたりを代入して確かめてから使ってます。ちなみに教科書とは別の導出方法も知っているのですがそちらも出すのにはちょっと大変なのだが、そちらは係数のヒントにはなるので係数の1/6は迷わず出てきますが。
ここで重要なのはこの式の数学的な意味がわかること。0からnまでの2乗を足し合わせた答えである。最低限、これは知っている必要があるだろう。いくらなんでもといわれるかもしれないが自称文系にはそれすら知らないでひたすら覚えるすごいのが結構いた。そりゃぁ嫌になるわなぁ・・・。

とまあ、公式なんて覚え方を間違わなければそんなに大変じゃないよと。

*1:この例は私のオリジナルではありませんが、参照した本は随分昔に読んだ本で覚えていないので割愛させてもらいます