結晶場

量子力学の勉強をある程度すると、水素原子模型というのを計算することになると思います。結果だけいうと、主量子数・方位量子数・磁気量子数という3つのパラメータで特徴づけられる電子の軌道が計算されます。主量子数というのは回転半径みたいなもので化学でいうk殻l殻m殻とかいうやつです。方位量子数は回転速度みたいなもので、化学でいうs軌道・p軌道・d軌道という奴です。磁気量子数は軌道の形のことです。それぞれ値が違うとエネルギーが違っていて、電子は低いエネルギーから順番に入っていきます。ところが、最後の磁気量子数に関してはエネルギーは同じ値をとります。(これを縮退といいます)ので、電子はどの軌道に入るかは分かりません。
さて、今までの議論は水素原子模型ということで、つまり、一つの原子核から作るエネルギーだけで計算されました。実際には分子を作ったり結晶を作ったりしてこのとおりの分類は必ずしも出来ません。が、これを出発点にして変化量を求めてやればいいわけです。
ここで具体例として3d軌道(主量子数が3で方位量子数が3)を考えて見ます。これは5つの軌道があります。前にも言ったとおり、5つともエネルギーは同じです。さて、これが結晶の中にいる場合はどうなるか?一番簡単な例として、正八面体の頂点に陰イオンがある場合を考えます。つまり、3d軌道を作っている原子の周り、上下左右前後、6箇所に陰イオン(酸素イオンとかフッ素イオンとか)があるとどうなるでしょうか?計算方法としては各軌道の波動関数から陰イオンとの相互エネルギーを求め(電子も陰イオンもマイナスなので近いとエネルギーがあがる)、その差を比べるわけです。計算自身は解析的に不可能でコンピュータによるゴリ押し積分で行うことになります。しかし、実は縮退が解けるか残るかだけは簡単に求まったりします。そもそもなんで違う軌道なのに全く同じエネルギーが出てくるのでしょうか?それは元の方程式の対称性が強いからです。原子1個分のつくるエネルギーは原子を中心として回転対象性がつよいのでそれで同じエネルギーの軌道がたくさんでてきたわけです。で、これは結晶内においても同じような議論ができます。上下左右前後に陰イオンが入ることによる回転対象性はなくなりましたかそれでも依然別の対象性がのこっているわけです。つまり、軌道の対称性とイオン配置の対称性が一致していたら縮退はのこるのです。対称性の違う奴だけエネルギーの変わり方が違って縮退が解けます。しかしこの方法、縮退が残るか解けるかは分かっても分かれた縮退のうちどちらの方が大きいかまではわかりません。しかし今回の正八面体構造の結晶場にかんしては直感的にわかります。というのは5つの軌道の伸び方がその6方向に対して特長があるからです。まず、5つの縮退が2つと3つに分かれます。そのうちどちらの方がエネルギーがひくくなるか?3つの方の1つは、XY平面内の4つの斜め方向に伸びている形をしています。他の3つもそれぞれYZ面・ZX面内でそうなってます。つまり、陰イオンを避ける方向に伸びています。一方、2つの方の1つはZ方向に大きく伸びています。ので、上下にある陰イオンに非常に近い状態になっています。残りの1つはxとy方向に伸びていてやはり陰イオンに近いです。ので、2つの方がエネルギーが高く、3つの方がエネルギーが低いです。
さて、クソ長い前置き(ぇ)でしたが、詳しい計算をしなくともいろいろ分かるということが言いたかったわけです。対称性に関しては群論とかを学ぶといろいろと楽できます。

長くなりそうなので続きはまた今度(ぇ