ペットボトルでの炭酸飲料の保存方法 その3

過去のリンクです
id:n-trino:20100319#p1
id:n-trino:20151224#p1


最初の考察に戻ってもうちょっと厳密に計算してみる。
最初の考察ではあくまで静的な考慮しかしていなかった。つまり、潰した直後の分圧のみの考察をしていた。その場合は潰した直後の方が圧倒的に分圧が高いので効果が高いだろうという結論に至った。
しかし、実際にはだんだん抜けていくうちに圧力が上がり、その分だけ潰した部分の体積が増えていく。なのでそんな簡単な結論には至らないのではないか?という指摘があった。たしかに直感的には体積が増える分だけ抜けやすくなりそうだ。なので潰した直後だけでなくその後体積も増えていく仮定まで含めた非平衡状態まで考慮に入れた計算をしてみようと思う。

あまり厳密に計算するには私の知識の限界やデータ不足があるので以下の仮定で計算する。
・ペットボトルを潰さずにキャップを閉めた場合は以後体積は一定で抜けた炭酸の分だけ圧力が増えていく。
・ペットボトルを潰してキャップを閉めた場合は、以後抜けた炭酸の分だけ体積が増えて、圧力(全圧)は一定(大気圧)である。
・CO2が気体から液体に移動する速度はCO2の分圧に比例(温度一定なので分子数/体積に比例)する。
・CO2が液体から気体に移動する速度も同じ原理が働いて、液体内の分子数(/体積)に比例する。
・ペットボトル内の空気部分は理想気体とする。また、温度も一定とする。
以下、各種定数の定義
k_a0:CO2が気体から液体に移動する際の比例定数
k_l0:CO2が液体から気体に移動する際の比例定数
V_0:ペットボトルを潰さない場合の空気領域の体積
V_l:液体の体積
k_a:k_a0/V_0
k_l:k_l0/V_l
n_a0:ペットボトルを潰さない場合の最初のCO2の分子数
n_l0:最初に液体に溶けているCO2の分子数
ρ:最初のCO2の気体中の分子濃度。= 0.00025
n_0:ペットボトルを潰す前の全分子数 = n_a0/ρ
σ:ペットボトルを潰した後の体積の比。十分潰すのでほぼ0

以上の仮定を元に計算してみる。

まずはペットボトルを潰さずにキャップを閉めた場合。つまり、体積一定の場合である。
空気中のCO2分子数と液体内の分子数をそれぞれ時間の関数n_a(t),n_l(t)とすると以下のような微分方程式が成り立つ。
\frac{d n_a(t)}{dt} = -k_a n_a(t) + k_l n_l(t)
\frac{d n_l(t)}{dt} =  k_a n_a(t) - k_l n_l(t)
微分方程式を解くのは非常に久しぶりで大変なのでここは文明の利器を使わせていただきました。
http://www.wolframalpha.com/
その結果、以下のようになりました。但し重要なのはn_l側なのでそちらだけ記します。
n_l(t)=\frac{k_l n_{i0} - k_a n_{a0} }{ k_a + k_l } exp(-(k_a + k_l)t) + \frac{(n_{l0} + n_{a0}) k_a}{(k_l+k_t)}
複雑な微分方程式が数秒で返って来るなんて便利な世の中になったものです。
さて、とりあえず結果が出たので次に行きます。
次はペットボトルを潰してからキャップを閉めた場合。つまり、圧力(全圧)一定の場合である。
先ほどとほぼ同じですが、今回は体積が可変です。体積Vを状圧力一定の仮定から状態方程式を使って計算してみると
p=\frac{n_a+\sigma(1-\rho)}{V}RT = \frac{n_{a0}/\rho}{V_0}RT
V=\frac{\rho(n_a+\sigma(1-\rho)n_{a0})}{V_0}
これよりVを代入すると
\frac{d n_a(t)}{dt} = -k_a \frac{n_{a0}n_a(t)}{\rho(n_a(t)+\sigma(1-\rho)n_{a0})} + k_l n_l(t)
\frac{d n_l(t)}{dt} =  k_a n_a(t) - k_l \frac{n_{a0}n_a(t)}{\rho(n_a(t)+\sigma(1-\rho)n_{a0})}
これで微分方程式が立ったがこれを解くのは容易ではない(ていうか解析的には不可能?)ので少し近似する。ペットボトルは空気を全部抜くほどに潰すのでσは限りなく0になる。よってσ→0とする。
\frac{d n_a(t)}{dt} = -k_a \frac{n_{a0}}{\rho} + k_l n_l(t)
\frac{d n_l(t)}{dt} =  k_a n_a(t) - k_l \frac{n_{a0}}{\rho}
これで解析的に解ける微分方程式になりました。
再び文明の利器に頼ってみたところ(いやこの程度は頑張ろうよ・・・)
n_l(t) = (n_{l0} - \frac{k_a}{k_l})exp(-k_l t ) + \frac{k_a}{k_l} n_0
このような結果が出ました。
あとは結果を比べるだけなのだが・・・未知定数がいっぱいある上にまだ複雑ですね。なのでさらに定数を減らしたいのだがこの段階でもある程度考察できる。例えば、ρ=1つまり大気のCO2濃度が100%の場合(火星ですか?)n_l0=n_0として計算すれば、常に前者の方が多くなる。つまり、ペットボトルを潰さない方がよいという結果になる。しかし実際にはρ=0.00025と極めて小さい。その場合はしばらくは後者が多いが途中で抜かしていく。というわけで最初は潰した方がいいが、時間がたつにつれてだんだん差が無くなっていき、最終的にはほぼ同じになる(正確にはペットボトルが元の体積に戻ってそれ以降の挙動が同じになる)
ではどの程度潰した方が有利になるのか?まずはk_lとk_aの比を調べてみよう。
いろいろネットで調べた結果、二つの事実が分かった。ひとつは、ペットボトルの初期の圧力は約4気圧。そして炭酸飲料1lの中の炭酸の体積は約4l。これ以上は調べられなかったので足りないデータは予測で行きます。まず、ペットボトルの初期の空気は100%CO2だと仮定する。そして炭酸飲料の中の炭酸の体積は温度0度での気体での体積と仮定する。それからもうひとつ仮定を増やす。今回の実験は2L炭酸飲料を半分飲んだ状態とする。つまり、空気領域1l、残った炭酸飲料1lとする。そうすると計算は省略するが、空気領域も炭酸飲料もCO2は約7g程とほぼ同じであった。なので、k_lとk_aもほぼ同じだという結論になった。さらに計算をすすめると今回の実験の空気領域の初期圧力は大気圧と同じなので1気圧。これによりn_l0=4n_0=4n_a0/ρ。これらを代入すると
n_l(t)=n_{l0}\{\frac{4-\rho}{8} exp(-2kt)+\frac{4+\rho}{8}\}
n_l(t)=n_{l0}\{\frac{3}{4}exp(-kt)+\frac{1}{4} \}
同じ記号になってしまったが上が潰さない場合、下が潰した場合の炭酸飲料に残っているCO2の量である。途中で仮定を入れまくったのでどこまで正確かわからないが一応これで比較がやりやすくなった。さらに比較しやすいようにρ=0.00025は4に比べて十分小さいので0とすると
n_l(t)=n_{l0}\{\frac{4}{8} exp(-2kt)+\frac{4}{8}\}
n_l(t)=n_{l0}\{\frac{3}{4}exp(-kt)+\frac{1}{4} \}
となる。
さて、この二つを適当なソフトでプロットしたのだが・・・結構微妙だな。一応4割ほど抜けるまでは潰した方が有利だがその差は結構微妙ですね。あんまり変わらないということでしょうか。

ちなみに潰すのではなく市販の圧力を上げる栓の場合はもっと計算は単純で、潰さない場合の式でρを大きくすればよい(正確には全圧を上げているのだが、分圧から見れば全圧を上げるのも濃度を上げるのも同じなので)。仮に10気圧まで上げたと仮定したらρ=0.0025だが、依然4に比べると小さいので結果はほぼ同じ。つまり殆ど効果なしという結論になる。

というわけで途中仮定がやたら多かったのでどこまで正しいか分からない(ていうか計算が正しいかも自信がない)が一応結論としては潰せば一応効果がある。がその効果は微妙。但し、市販の圧力を上げる栓よりは効果はありそうです。